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  6. 1. 定期観測レポート ブロードバンドトラフィックレポート -ダウンロード量の増加率は2年連続で減少-

Internet Infrastructure Review(IIR)Vol.40
2018年9月28日
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目次

1. 定期観測レポート

ブロードバンドトラフィックレポート
-ダウンロード量の増加率は2年連続で減少-

1.1 概要

このレポートでは、毎年IIJが運用しているブロードバンド接続サービスのトラフィックを分析して、その結果を報告しています(※1)(※2)(※3)(※4)(※5)(※6)(※7)(※8)(※9)。今回も、利用者の1日のトラフィック量やポート別使用量などを基に、この1年間のトラフィック傾向の変化を報告します。

図-1は、IIJのブロードバンドサービス及びモバイルサービス全体について月平均トラフィック量の推移を示したグラフです。トラフィックのIN/OUTはISPから見た方向を表し、INは利用者からのアップロード、OUTは利用者へのダウンロードとなります。トラフィック量の数値は開示できないため、それぞれのOUTの最新値を1として正規化しています。ブロードバンドに関しては、今回からIPv6 IPoEのトラフィック量も含めて示しています。IPv6 IPoEを含まない分は、“broadband-IPoE”として細線で示します。IIJのブロードバンドにおけるIPv6は、IPoE方式とPPPoE方式がありますが(※10)、IPoEトラフィックはインターネットマルチフィード社のtransixサービスを利用していて直接IIJの網を通らないため、以降の解析の対象にはなっていません。2018年6月時点で、IPoEのブロードバンドトラフィック量の全体に占める割合は、INで12%、OUTで8%です。

ブロードバンド、モバイル共に、昨年の後半に一時期伸びが鈍りましたが、今年に入って再度伸びてきて、元の成長曲線に戻ってきました。この1年のブロードバンドトラフィック量は、INは12%の増加、OUTは20%の増加となっています。1年前はそれぞれ10%と25%の増加、2年前は18%と47%の増加でしたので、ダウンロード量は2年連続で伸びが鈍ったことになります。モバイルに関しては、この4年の数字しかありませんが、この1年でINは69%の増加、OUTは36%の増加と、こちらも1年前の103%と70%に比べると伸びが鈍化しているものの、依然大きく伸びています。ただし、総量ではまだブロードバンドより1桁少ない状況が続いています。

図-1 ブロードバンド及びモバイルの月間トラフィック量の推移

1.2 データについて

今回も前回までと同様に、ブロードバンドに関しては、個人及び法人向けのブロードバンド接続サービスについて、ファイバーとDSLによるブロードバンド顧客を収容するルータで、Sampled NetFlowにより収集した調査データを利用しています。モバイルに関しては、個人及び法人向けのモバイルサービスについて、使用量についてはアクセスゲートウェイの課金用情報を、使用ポートについてはサービス収容ルータでのSampled NetFlowデータを利用しています。

トラフィックは平日と休日で傾向が異なるため、1週間分のトラフィックを解析しています。今回は、2018年5月28日から6月3日の1週間分のデータを使っていて、前回解析した2017年5月29日から6月4日の1週間分と比較します。

ブロードバンドの集計は契約ごとに行い、一方モバイルでは複数電話番号の契約があるので電話番号ごとの集計となっています。ブロードバンド各利用者の使用量は、利用者に割り当てられたIPアドレスと、観測されたIPアドレスを照合して求めています。また、NetFlowではパケットをサンプリングして統計情報を取得しています。サンプリングレートは、ルータの性能や負荷を考慮して、1/8192~1/16382に設定されています。観測された使用量に、サンプリングレートの逆数を掛けることで全体の使用量を推定しています。

IIJの提供するブロードバンドサービスにはファイバー接続とDSL接続がありますが、今ではファイバー接続の利用がほとんどとなっています。2018年には観測されたユーザ数の97%はファイバー利用者で、ブロードバンドトラフィック量全体の99%を占めています。

1.3 利用者の1日の使用量

まずは、ブロードバンド及びモバイル利用者の1日の利用量をいくつかの切り口から見ていきます。ここでの1日の利用量は各利用者の1週間分のデータの1日平均です。

図-2及び図-3は、ブロードバンドとモバイル利用者の1日の平均利用量の分布(確率密度関数)を示します。アップロード(IN)とダウンロード(OUT)に分け、利用者のトラフィック量をX軸に、その出現確率をY軸に示していて、2017年と2018年を比較しています。X軸はログスケールで、10KB(104)から100GB(1011)の範囲を示しています。一部の利用者はグラフの範囲外にありますが、概ね100GB(1011)までの範囲に分布しています。

ブロードバンドのINとOUTの各分布は、片対数グラフ上で正規分布となる、対数正規分布に近い形をしています。これはリニアなグラフで見ると、左端近くにピークがあり右へなだらかに減少するいわゆるロングテールな分布です。OUTの分布はINの分布より右にずれていて、ダウンロード量がアップロード量より、1桁以上大きくなっています。2017年と2018年で比較すると、INとOUT共に分布の山が僅かながら右に移動しており、利用者全体のトラフィック量が増えていることが分かります。

右側のOUTの分布を見ると、分布のピークはここ数年間で着実に右に移動していますが、右端のヘビーユーザの使用量はあまり増えておらず、分布の対称性が崩れてきています。一方で、左側のINの分布は左右対称で、より対数正規分布に近い形です。

図-3のモバイルの場合、ブロードバンドに比べて利用量は大幅に少ないことが分かります。また、使用量に制限があるため、分布右側のヘビーユーザの割合が少なく、左右非対称な形になります。極端なヘビーユーザも存在しません。外出時のみの利用や、使用量の制限のため、各利用者の日ごとの利用量のばらつきはブロードバンドより大きくなります。そのため、1週間分のデータから1日平均を求めると、1日単位で見た場合より利用者間のばらつきは小さくなります。1日単位で同様の分布を描くと、分布の山が少し低くなり、その分両側の裾が持ち上がりますが、基本的な分布の形や最頻出値はほとんど変わりません。

図-2 ブロードバンド利用者の1日のトラフィック量分布
2017年と2018年の比較

図-3 モバイル利用者の1日のトラフィック量分布
2017年と2018年の比較

表-1は、ブロードバンド利用者の1日のトラフィック量の平均値と中間値、分布の山の頂点にある最頻出値の推移を示します。分布の山に対して頂点が少しずれているので、最頻出値は分布の山の中央に来るように補正しています。

分布の最頻出値を2017年と2018年で比較すると、INでは79MBと前年から変わらず、OUTでは1260MBから1413MBに増えており、伸び率で見ると、INとOUTそれそれで1倍と1.1倍になっています。一方、平均値はグラフ右側のヘビーユーザの使用量に左右されるため、2018年には、INの平均は582MB、OUTの平均は3139MBと、最頻出値よりかなり大きな値になりました。2017年には、それぞれ520MBと2624MBでした。モバイルでは、表-2に示すように、ヘビーユーザが少ないため平均と最頻出値が近い値になります。2018年の最頻出値は、INで7MB、OUTで79MBで、平均値は、INで17.0MB、OUTで81.9MBです。最頻出値は、INもOUTも昨年と同じ値となっています。中間値と最頻出値はほとんど変わっていないのに、平均値が増加していて、ヘビーユーザが特にIN側で増えていることが窺えます。

表-1 ブロードバンド利用者の1日のトラフィック量の平均値と最頻出値の推移

表-2 モバイル利用者の1日のトラフィック量の平均値と最頻出値

図-4及び図-5では、利用者5,000人をランダムに抽出し、利用者ごとのIN/OUT使用量をプロットしています。X軸はOUT(ダウンロード量)、Y軸はIN(アップロード量)で、共にログスケールです。利用者のIN/OUTが同量であれば対角線上にプロットされます。

対角線の下側に対角線に沿って広がるクラスタは、ダウンロード量が1桁多い一般的なユーザです。ブロードバンドでは、以前は右上の対角線上あたりを中心に薄く広がるヘビーユーザのクラスタがはっきり分かりましたが、今では識別ができなくなっています。また、各利用者の使用量やIN/OUT比率にも大きなばらつきがあり、多様な利用形態が存在することが窺えます。ここでは、2017年と比較しても、違いはほとんど確認できません。

モバイルでも、OUTが1桁多い傾向は同じですが、ブロードバンドに比べて利用量は少なく、IN/OUTのばらつきも小さくなっています。また、クラスタの傾きは対角線より小さくなっており、使用量の多いユーザほどダウンロード比率が高くなっていることが分かります。

図-4 ブロードバンド利用者ごとのIN/OUT使用量

図-5 モバイル利用者ごとのIN/OUT使用量

図-6及び図-7は、利用者の1日のトラフィック量を相補累積度分布にしたものです。これは、使用量がX軸の値より多い利用者の、全体に対する割合をY軸に、ログ・ログスケールで示したもので、ヘビーユーザの分布を見るのに有効です。グラフの右側が直線的に下がっていて、べき分布に近いロングテールな分布であることが分かります。ヘビーユーザは統計的に分布しており、決して一部の特殊な利用者ではないと言えます。モバイルでも、OUT側ではヘビーユーザはべき分布していますが、IN側では昨年よりも直線的な傾きが崩れていて、大量にアップロードするユーザの割合が大きくなっています。

利用者間のトラフィック使用量の偏りを見ると、使用量には大きな偏りがあり、結果として全体は一部利用者のトラフィックで占められています。例えば、ブロードバンド上位10%の利用者がOUTの60%、INの86%を占めています。更に、上位1%の利用者がOUTの25%、INの59%を占めています。ここ数年のヘビーユーザ割合の減少に伴い、僅かながら偏りは減ってきています。モバイルでは、上位10%の利用者がOUTの50%、INの70%を、上位1%の利用者がOUTの15%、INの52%を占めています。ここ数年でヘビーユーザの割合が着実に増えています。

図-6 ブロードバンド利用者の1日のトラフィック量の相補累積度分布

図-7 モバイル利用者の1日のトラフィック量の相補累積度分布

1.4 ポート別使用量

次に、トラフィックの内訳をポート別の使用量から見ていきます。最近では、ポート番号からアプリケーションを特定することは困難です。P2P系アプリケーションには、双方が動的ポートを使うものが多く、また、多くのクライアント・サーバ型アプリケーションが、ファイアウォールを回避するため、HTTPが使う80番ポートを利用します。大まかに分けると、双方が1024番以上の動的ポートを使っていればP2P系のアプリケーションの可能性が高く、片方が1024番未満のいわゆるウェルノウンポートを使っていれば、クライアント・サーバ型のアプリケーションの可能性が高いと言えます。そこで、TCPとUDPで、ソースとデスティネーションのポート番号の小さい方を取り、ポート番号別の使用量を見てみます。

表-3はブロードバンド利用者のポート使用割合の過去4年間の推移を示します。2018年の全体トラフィックの79%はTCPです。前回まで増加を続けていたHTTPSの443番ポートの割合は、2017年の43%から41%に減っています。HTTPの80番ポートの割合も、2017年の28%から27%に減っており、GoogleのQUICプロトコルで使われるUDPの443番ポートが、11%から16%に増えています。このことから、以前から続いているHTTPからHTTPSへの移行が、更にQUICへと移ってきたことが分かります。減少傾向のTCPの動的ポートは、2017年の11%から2018年には10%にまで減りました。動的ポートでの個別のポート番号の割合は僅かで、Flash Playerが利用する1935番が最大で総量の約0.7%ありますが、後は0.3%未満となっています。TCP以外のトラフィックでは、UDPの443番ポート以外は、ほとんどVPN関連です。

表-4はモバイル利用者のポート使用割合です。ブロードバンドと比べると、HTTPSの割合が多くなっていますが、全体的にはブロードバンドの数字に近い値となっており、モバイル利用者もブロードバンドと同様のアプリケーションの使い方をしていることが窺えます。

表-3 ブロードバンド利用者のポート別使用量

表-4 モバイル利用者のポート別使用量

図-8は、ブロードバンド全体トラフィックにおける主要ポート利用の週間推移を、2017年と2018年で比較したものです。TCPポートの80番、443番、1024番以上の動的ポート、UDPポート443番の4つに分けてそれぞれの推移を示しています。今回から、利用量の少なくなったウェルノウンポートに代わって、UDPポート443番を加えています。グラフでは、ピーク時の総トラフィック量を1として正規化して表しています。全体のピークは19:00から23:00頃で、443番ポートのピークは80番ポートのピークより若干早くなっています。土日には昼間のトラフィックが増加しており、家庭での利用時間を反映しています。

図-9のモバイルでは、トラフィックの大半を占めるTCP80番ポートと443番ポート、UDP443番ポートについて推移を示します。ブロードバンドに比べると、朝から夜中までトラフィックの高い状態が続きます。平日には、朝の通勤時間、昼休み、夕方17:00頃から22:00頃にかけての3つのピークがあり、ブロードバンドとは利用時間の違いがあることが分かります。

図-8 ブロードバンド利用者のTCPポート利用の週間推移
2017年(上)と2018年(下)

図-9 モバイル利用者のTCPポート利用の週間推移
2017年(上)と2018年(下)

1.5 まとめ

この1年間のブロードバンドトラフィックの傾向として、昨年後半にややブレーキがかかったトラフィック増加が、今年に入って再度増加傾向にあることが挙げられます。この1年間で見るとダウンロード量は20%、アップロード量は12%増加していますが、ダウンロードの伸び率は2年連続して低下しています。

モバイルトラフィックについては、増加率は少し下がって来たものの、この4年間で大きく伸びてきています。ブロードバンドと比較すると、ヘビーユーザの割合が少なく、利用時間では平日の通勤時間帯や昼休みの利用が目立つなどの違いがあります。

また、4年ほど前からHTTPSの利用が大きく拡大していて、TCPとUDPの443番を合わせるとブロードバンドの51%、モバイルの63%になります。最近では、WebブラウザがHTTPを安全でないと表示したり、HTTPのみのサイトは検索サイトで優先順位が下がったりと、HTTPSへの移行の圧力が強まっているので、今後もHTTPの減少が続くと予想されます。

  1. (※1)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: トラフィック増加はややペースダウン. Internet Infrastructure Review. vol.36. pp4-9. August 2017.
  2. (※2)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: 加速するトラフィック増加. Internet Infrastructure Review. vol.32. pp28-33. August 2016.
  3. (※3)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: ブロードバンドとモバイルのトラフィックを比較. Internet Infrastructure Review. vol.28. pp28-33. August 2015.
  4. (※4)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: この一年でトラフィック量は着実に増加、HTTPS の利用が拡大. Internet Infrastructure Review. vol.24. pp28-33. August 2014.
  5. (※5)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: 違法ダウンロード刑事罰化の影響は限定的. Internet Infrastructure Review. vol.20. pp32-37. August 2013.
  6. (※6)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: この1 年間のトラフィック傾向について. Internet Infrastructure Review. vol.16. pp33-37. August 2012.
  7. (※7)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: マクロレベルな視点で見た、震災によるトラフィックへの影響. Internet Infrastructure Review. vol.12. pp25-30. August 2011.
  8. (※8)長健二朗. ブロードバンドトラフィックレポート: P2P ファイル共有からWeb サービスへシフト傾向にあるトラフィック. Internet Infrastructure Review. vol.8. pp25-30. August 2010.
  9. (※9)長健二朗. ブロードバンドトラフィック: 増大する一般ユーザのトラフィック. Internet Infrastructure Review. vol.4. pp18-23. August 2009.
  10. (※10)小川晃通. プロフェッショナルIPv6. 付録A.3. IPv6 PPPoEとIPv6 IPoE. ラムダノート. July 2018.

長 健二朗

執筆者プロフィール

長 健二朗 (ちょう けんじろう)

株式会社IIJ イノベーションインスティテュート 技術研究所所長。

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