関本氏
既存のシステムからIIJのシステムに移行するとき、これまで利用していたシンクライアントやリモートアクセスなどの社内OA環境の機能がすべて利用できることが不可欠でした。感覚的には要件定義も含めて1年はかかるようなプロジェクトと理解していましたが、移行の方針を決めたのが2019年6月で、契約の関係上2020年1月には移行先の環境で本稼働をしなければならないという差し迫った事情がありました。
IIJには、従来環境と同等の機能を備えたサービスがすべてそろっていて、移行による機能面での制約が生じないことが分かりました。約半年という短期間で従来環境を丸ごと移行できるのは、IIJしかありませんでした。
佐伯氏
パフォーマンスに関しては多くの検討をお願いすることになりました。前述したように、業務で利用するExcelがCPUパワーを非常に多く使いますし、ピーク時の対応も必要です。当初のIIJの提案の構成ではパフォーマンスが出ませんでした。その後、1ヵ月程度チューニングに時間をかけ、パフォーマンス面でも納得のゆく構成の提案をもらうことができました。
関本氏
東京オフィスがある築地界隈は、予定されていた東京オリンピック・パラリンピックの主要会場に近く、大会対応として従業員の一定数をテレワークにすることを想定していました。もともとシンクライアントサービスはセキュリティ向上のためのツールでしたが、リモートアクセスと組み合わせて業務のリモート化を推進することも考えました。IIJには、高速・低遅延なVPNサービスがラインアップにあり、安定したテレワークが実現できるだろうと評価しました。
関本氏
非常に短期間で必要十分な環境を作ってもらったことは、最大限に評価すべきだと考えています。
佐伯氏
性能的にも、業務利用の中心であるシンクライアントサービスによるExcelの利用は、いろいろな提案をIIJからもらいながら、給与計算のピーク時の業務も収まるような形で運用できています。
関本氏
今後、年末調整という試練が待っていて30万人分の申告書を処理しなければなりません。スタッフを期間限定で増員するので、端末の増加とクラウドサービスの環境の臨時の増強もする予定です。このときにきちんと動くことが最大の山場でしょう。とはいえ、弊社から増強のお願いをするだけで使えるようになるので、従来のプライベートクラウドの環境のように1台ずつインストールするような作業は発生しません。数の調整とタイミングの段取りが付けば、山場は乗り越えられると考えています。
関本氏
シンクライアントとリモートアクセスの環境が整っていたことで、緊急事態宣言が発出された際の対応として一気に役立ちました。
佐伯氏
人事給与のアウトソーシング業務を行う弊社は事務の会社であり、書類の処理が多いのです。出社しないと仕事ができない従業員が一定数に上ります。その際に、その人たちが社内で働くスペースを、「密」にせず「疎」にすることが求められました。そこで、リモートでも業務対応できるメンバーは在宅勤務として、どうしても出社が必要な従業員がオフィスで業務に取り組めるようにしました。一番多いときは、8割の従業員を在宅勤務にシフトすることができたのです。コロナ禍の対応が求められたのが、IIJのソリューションが稼働した後だったので、非常に助かりました。
関本氏
優先順位は、これまでと同様のサービスを従業員に提供することでした。コスト面では、これまで同様の装備を同等の価格で実現してもらっているという印象です。今後IIJで安価なサービスなどが出てきて、コスト削減につながることを期待しています。
佐伯氏
これまでは運用も含めて事業者に依頼していたため、サービス料金以外にも運用費用などがかかっていました。今後はクラウドで様々な機能を実現していく必要性が高まり、ノウハウの社内蓄積も求められます。今回のシステム刷新には社内にITのエキスパートを育てるという意味もありますので、トータルコストの判断はこれからになると思います。
佐伯氏
経営側からの要求の1つが、コミュニケーション活性化への取り組みです。クラウドサービスのMicrosoft 365にコミュニケーションツールを移行し、ビデオ会議なども含めた共同作業ができるMicrosoft Teamsの導入も進める計画です。そのためのインフラとしての利用を、IIJのデジタルワークプレース活用の2段階目として考えています。
関本氏
クラウドを使うことの意味の1つは、外部の技術力や技術進化を取り入れることです。例えば、利便性とセキュリティは二律背反します。これを打破するのは技術力しかありません。IIJの技術力には大いに期待しています。
※ 本記事は2020年9月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
※ 会社名及びサービス名などは、各社の登録商標または商標です。
専有環境の課題とベンダーロックインからの脱却
HROne様の事業概要を教えてください。
HROne 関本誉志氏
人事業務のアウトソーシングをサービスとして提供しています。人事給与関連には様々な業務があります。企業はこれらをアウトソーシングすることで、業務の属人化が防げるだけでなく、より専門性の高いサービスを享受でき、コストの適正化を図ることができます。
アウトソーシングサービスを提供する企業として、システム構築はどのように取り組まれてきましたか。
HROne 佐伯真吾氏
社内には、大きく2つのシステムがあります。1つが「社内OA環境」で、自社の業務に利用するITインフラです。もう1つが、アウトソーシングサービスとして顧客に提供する「商用環境」と呼ぶインフラです。いずれも、品質やサービスレベルを向上させながら、コストを下げることが求められます。そのためにクラウドの利用を推進してきていて、社内OA環境も商用環境もプライベートクラウド上に実装していました。
ただし、プライベートクラウドの利用にも課題はありました。1つはプライベートクラウドとして専有環境を作ってしまうと、何年かは継続して利用しなければならず、新しい技術が導入しにくいということです。特にセキュリティなどで新しい技術や仕組みが登場しても、すぐに対応できないのは痛手でした。
もう1つは社内OA環境も商用環境も同じサービス事業者に委託していたことによる、いわゆる「ベンダーロックイン」からの脱却が求められたことです。
先行して商用環境はMicrosoft Azureに移行していました。社内OA環境も、何らかの対策が求められていました。
社内OA環境にはシステム面の課題があったのですか。
関本氏
HROneは、かなり特殊な社内OAの使い方をしている会社だと自覚しています。給与計算を請け負うことから、月中に業務処理が集中する高いピーク性があるためです。従来のシステムでもセキュリティを確保するためにローカルにデータを保管せず、シンクライアント方式で業務を実現していたのですが、ピーク時に処理能力を突き抜けてしまうとどの端末も動かなくなるような状態でした。
特に、ExcelによるCPUの取り合いが問題で、1つのCPUを共有利用している端末のうち最初にログオンした端末が膨大なExcel処理を行ってCPUを占拠してしまうと、後からログオンした端末にCPUのリソースがほとんど割り当てられず業務が滞ってしまっていました。
一方で、社内OA環境は業務で不可欠の上、ITに詳しくない多くの従業員が利用するものです。既存環境からの大幅な変化は許容できないので、無理な更新はしないという選択肢もありました。そうした背景もあり、シンクライアント環境をクラウドサービスで利用する可能性を探していたところ、商用環境のAzure移行をお願いした事業者からIIJを紹介されました。