大和ハウスグループの一員で「DAIWA ROYAL HOTEL」の運営などリゾート事業を手掛ける大和リゾートは、2020年に大きな執務スタイルの転換を目指していた。急速に広まりつつある「テレワーク」を、一部の従業員が利用するものではなく、全社の基本にしてしまおうという大胆なものだ。将来的には東京の有明地区にある本社、大阪の西日本支社などの事業所を必要最低限に縮小し、基本的な業務をテレワークで行おうという一大プロジェクトである。
大和リゾートの高田真次氏は、「本社のある有明地区は2020年夏の世界的スポーツイベントの会場予定地となっており、その時期の通勤問題が1つのきっかけでした。2020年4月からテレワークを実施するということで検討が始まりました」と振り返る。
テレワークの基盤には、マイクロソフトがMicrosoft 365で提供するコミュニケーションプラットフォームの「Microsoft Teams」(以下、Teams)を採用。Teamsはチャットなどの文字のコミュニケーションだけでなく、通話やテレビ会議、資料などを共有した共同作業などもできるツールで、テレワークの基盤としての機能が備わっている。大和ハウスグループで既にMicrosoft 365を採用していたことも採用を後押しした。
ただし、課題もあった。それは社内ネットワークからMicrosoft 365に接続する回線の問題で、大和ハウスグループのセキュリティポリシーとしてダイレクト接続が必須だった。従来は大和ハウスグループのプロキシサーバを介して外部クラウドサービスとダイレクト接続していたが、帯域が潤沢とは言えなかった。さらにMicrosoft 365では、1人あたり30~40といった多くのセッションと通信帯域を使うため、大和リゾートの2000人規模の従業員がテレワークに移行したときにグループの他の企業の通信に影響を与える懸念もあった。
大和リゾートの近藤章氏は次のように説明する。「これまでも回線とプロキシサーバがボトルネックになり、非常に遅かったのが現実です。Microsoft 365とダイレクト接続できる回線の解決策を探し、グループの情報システム会社であるメディアテックに相談したところ、IIJを紹介されました」
自社のネットワークから直接、Microsoft 365にダイレクト接続が可能で、テレワークに耐えられるだけのネットワーク構成を求めて、大和リゾートはIIJに相談を持ちかけた。IIJは、2019年11月にMicrosoft 365を含むMicrosoft Azureとのダイレクト接続を提供する「IIJクラウドエクスチェンジサービス for Microsoft Azure Peering Service」のリリースを控えていて、これがちょうど要件にマッチするとして大和リゾートに提案した。この新サービスの提供開始は2020年4月で大和リゾートのテレワーク実施と同時期であり、その前にPreview期間として事前のテレワーク試行にも対応可能であることがわかった。
大和リゾートはIIJを含めた数社に提案を求めたが、要件を満たす提案はIIJのものだけだった。テレワークプロジェクトが始動した2019年9月になると、テレワーク実施まで半年しか残り時間はない。「迷っている暇はありませんでした。良いと判断したIIJの新サービスで前に進めて、うまくいかなかったら改めて別のソリューションを探せばいいと考えていました」(近藤氏)。
ネットワーク構成の中心は、IIJクラウドエクスチェンジサービス for Microsoft Azure Peering Serviceを使ったMicrosoftのクラウドサービスとのダイレクト接続。Microsoft 365のTeamsを活用するため、セキュリティポリシーに抵触せず信頼性と必要な帯域を確保できるようにした。
同時に、「IIJクラウドプロキシサービス」を利用し、Microsoft 365で大量に発生するセッション情報を管理するためのプロキシサーバをクラウド化。これにより、プロキシサーバの運用工数と、プロキシサーバ自体にかかる負荷を削減した。
今回IIJからは、ネットワークだけでなく、Microsoft 365利用に必要なライセンスや認証サービスも含めて提供。上記の構成で、2020年4月のテレワーク実施を安心して迎えられるはずだったが、2020年の年初からの新型コロナウイルスへの対応で、テレワーク開始が前倒しとなった。大和リゾートのシステム管理グループでは、パソコンのセットアップを順次進めると同時に、IIJのサービスを利用したネットワークのカットオーバーを急いだ。
3月上旬には、新しいネットワークのPreview利用と、約200台のテレワーク用のパソコンの準備が整い、Teamsを利用したコミュニケーション基盤が前倒しで本番利用可能になった。高田氏は、「カットオーバーの時点では大きな混乱もなく、Teamsを利用したテレワーク環境が実際に動き出しました」と胸をなでおろす。
実は大和リゾートではTeams利用時のもう1つの課題への対応も進めている。それが外線電話の取り扱いだ。「働き方改革を推進していくと、会社宛の外線電話をテレワーク中の従業員でも受けられる仕組みが必要になります」と近藤氏は話す。IIJに相談すると、ソフトバンクが提供しているクラウドPBXを利用したTeams向けの音声通話サービス「UniTalk」の情報が得られた。Teamsの通話機能で固定電話番号による発着信が可能になる国内初のサービスで、大和リゾートではテレワークに必須の機能として導入に向けた検証を行っている。
テレワーク用のノートPC とTeamsの活用によるテレワーク環境整備で、「どこにいても99%以上は社内LANのデスクトップと同じ業務ができます。IIJの提案で構築したネットワークにより、セキュリティポリシーに合致した上で利用者に快適なインフラが整備できたと感じています」と高田氏は満足感を示す。事務所をなくす意気込みでスタートする大和リゾートの本格的なテレワークを、IIJの最新サービスが見えないところで支えている。
※ 本記事は2020年3月に取材した内容を基に構成しています。記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。
ただし、2023年の事業譲渡に伴い、社名とお客様プロフィールのみ変更しております。