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IIJ.news Vol.190 October 2025
――パートナーと歩むIIJのモバイル事業
IIJ 常務執行役員 モバイルサービス事業本部長
矢吹 重雄
IIJは2012年春、LTE対応の個人向けモバイルサービス(IIJmio)と、MVNO(仮想移動体通信事業者)向けの「IIJモバイルMVNOプラットフォームサービス」をリリースし、個人向けMVNO市場において本格的な事業展開を開始しました。それ以降、多くのパートナーとモバイル市場の多様性を追求し、成長し続けてきました。
IIJmioは当初、IIJのオンライン販売専用の自社サービスとして誕生しましたが、現在ではパートナー店舗での即日開通、プライベートブランドモデルの提供、eSIMの提供などを実現し、パートナー各社のビジネス戦略とともに進化しています。
一方、MVNOプラットフォームサービスでは、MVNOの立ち上げ支援、各社の戦略に応じたシステム連携、IMSI*サービスの提供など、パートナーが自社の強みを最大限に発揮できる環境を整えています。
IIJのモバイル事業には、特に大切にしている3つの柱があります。
1つ目は通信サービスの品質です。回線品質、サービスの安定性、サポート体制、障害発生時の迅速な復旧など、「技術のIIJ」の名に恥じない運営を徹底しています。「お客さまが安心して使えること」が、もっとも重要だと考えています。
2つ目は新しい技術への挑戦です。フルMVNOによるeSIMやソフトSIM、IMSIなど、従来にないサービスをいち早く導入し、新しい通信サービスのかたちを追求してきました。IIJはモバイル市場を切り拓くチャレンジャーであり、この姿勢こそ、私たちの重要なミッションなのです。
3つ目はサービスを常に進化させる体制です。安定性と進化は時に相反しますが、お客さまの声に柔軟に応え、難度の高い要望にも挑み続けています。高い技術力でサービスを進化させることが、新たな通信やビジネスモデルを生み、モバイル市場の発展につながると考えています。
これまで各パートナーとはビジネスの議論を重ね、時には叱咤激励や困難な課題もいただきましたが、それに応えることこそIIJの技術力であり、サービスの力だと自負しています。今後も多様なパートナーとともにMVNO事業について熱く語り合いながら、今までにないビジネスモデルの創出に尽力していきます。
既存のパートナーはもちろん、MVNOを新しいビジネスモデルとして検討している異業種の方々や、さまざまなパートナー候補ともワクワクするような議論を重ね、各パートナーの強みを活かしたモバイルビジネスを支援して、MVNO市場のさらなる発展に貢献していきます。
以下では特別寄稿として、MVNOの黎明期からIIJと協業し、市場を牽引してきたビックカメラグループ、イオン、AIR-Uや、近年サービスを始めたJAL、メルカリといった異業種企業が、どのように通信事業へ参入し、独自の価値を提供しているのかをご紹介します。MVNO市場は、技術革新と顧客ニーズの多様化により、急速な進化を遂げています。各社の戦略・展望を見ながら、MVNOがもたらす新たな顧客体験と社会的意義を紐解きます。
* IMSI(International Mobile Subscriber Identity)は、通信の利用者を識別する番号です。固有の識別子を持つことで、国内外の移動体通信事業者と対等に相互接続が可能になります。
株式会社ラネットは、株式会社ビックカメラの子会社として2002年に創業して以来、携帯電話の販売を主軸に事業を展開してまいりました。MVNO事業におきましては、2013年6月よりIIJとパートナーシップを結び、ビックカメラのプライベートブランド商品として「BIC SIM powered by IIJ」の提供を開始いたしました。
IIJとの提携を決断した最大の理由は、圧倒的な「技術力」にありました。当グループの強みである「販売力」とIIJの「技術力」を掛け合わせることで、お客さまに新たな価値を提供する「BIC SIM」が誕生いたしました。
当初はデータ通信専用SIMからのスタートでしたが、お客さまから大きな反響をいただき、IIJと協議を重ねながら音声通話対応プランのサービス開始や、店頭で即日開通可能な「BIC SIMカウンター」の設置などを実現し、ともにMVNO市場の成長を牽引してまいりました。
近年、さまざまな業種からMVNO事業への参入が続いておりますが、当社は長年の事業で培った知見を活かして、これからもIIJと二人三脚で市場の拡大・発展に貢献してまいります。
第4事業本部 本部長
林 裕介 (はやし ゆうすけ)
2010年、株式会社ラネット入社。メインビジネスである携帯代理店担当を経て、「BIC SIM」黎明期の2014年より「BIC SIM powered by IIJ」を担当。家電小売業界初となる店頭カウンター「BIC SIMカウンター」の開設などに携わる。その後、SIM関連事業を拡大し、2023年4月より現職。
当社は携帯電話の販売に約30年携わっており、多くのお客さまからさまざまなお声をいただきました。そうしたお声を反映させたお客さま目線の「商人(小売業)の通信サービス」を目指し、「イオンモバイル」サービスを開始いたしました。
サービスを提供していくなかで、多様化する、さまざまなお客さまのニーズに対応すべく、小容量でのご利用向け1GB刻みの「さいてきプラン」、ご家族で容量をシェアする「シェアプラン」、60歳以上のシニアの方を対象とした低料金の「やさしいプラン」など、お客さまのご利用用途に応じたイオンモバイル独自の通信サービスを、柔軟性の高いIIJモバイルMVNOプラットフォームサービスを活用させていただくことで、実現してまいりました。
今後、スマートフォンは「マイナンバーカードのスマホ搭載」をはじめ、さまざまな公的サービスと連携し、利用方法や設定も多様化・複雑化していきます。全国約200店舗での対面接客を通して、ますます進化するスマートフォンを安心してご契約・ご利用いただけるよう、ご提案および売場環境づくりに取り組んでまいります。
今後の展開としましては、イオングループのさまざまなサービスとのID連携を強化し、イオンモバイルとのシナジー効果により、お客さまの体験価値を高め、生活をより便利に、豊かにしていきます。お客さまを原点に、日々の暮らしに貢献できる通信サービスを目指して、さらなるサービス改善を推進してまいります。
住居余暇本部 イオンモバイル事業部 事業部長
河野 充宏 (かわの みつひろ)
1999年、イオンリテール株式会社に入社。2001年にイオンモバイル事業部携帯電話バイヤー、2012年に商品部兼営業企画部部長として大手キャリアのスマートフォンの仕入、営業企画を担当。2014年に格安スマホ「イオンスマホ」、2016年にMVNO「イオンモバイル」の立ち上げに参画。2020年より現職。
日本航空(JAL)は、2025年4月よりIIJと提携し「JALモバイル」を開始いたしました。JALモバイルは、月額440円(データ専用2GB)からという低価格でありながら、利用料金に応じてマイルがたまり、特典航空券をご利用いただける革新的なサービスです。リーズナブルな料金体系に加え、マイルがたまるサービスとすることで、航空会社としての強みを活かした新たな顧客体験を提供し、予想を大きく上回るご好評をいただいています。
JALがモバイル事業に参入した背景には、航空業界の事業環境の変化があります。航空事業のみならず、収益基盤の多角化が急務となった際に注目されたのが、JALの強みであるマイレージ事業など非航空事業の拡大でした。マイレージ事業部は、JALとお客さまのタッチポイントを拡大し、多様な分野にマイル利用を広げることで事業を推進しています。
JALモバイルはこの戦略の重要な柱に位置づけられています。お客さまにマイルを還元することで、マイルコミュニティへ入っていただくとともに、国内線の航空券「どこかにマイル」を提供するなど、マイルの使い道を充実させました。これにより、単なる通信サービスの提供にとどまらず、本業である航空サービスとの連携を実現すると同時に、お客さまの満足度を最大限に高めることができると考えています。
JALモバイルは、単なる新規事業というだけでなく、JALの中期経営計画に掲げたマイレージ・ライフスタイル事業の成長戦略において、新規収益基盤、お客さまとの関係性強化、新規顧客獲得など、重要な役割を担うモデルケースとなりました。今後も顧客基盤の強化やマイル活用の多様化に注力し、航空業界の枠を超えたライフスタイル全般にサービスを拡張していく予定です。
マイレージ事業部 事業部長
杉山 寿英 (すぎやま としひで)
上智大学卒業後、1991年に株式会社日本エアシステム(現日本航空)入社。以降、東京空港支店旅客サービス部、国際営業部、法人販売部、グローバル販売部(英国駐在)などの部署を歴任。現在、マイレージ事業部長を務め、中期経営計画に掲げた非航空領域の事業拡大を推進している。
メルカリは、2025年3月に新規事業「メルカリモバイル」を立ち上げました。これは単なる通信サービスにとどまらず、「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」という当社のミッションを具体化する取り組みです。
メルカリは、フリマアプリ「メルカリ」のC to C取引を軸に、B to Cの「メルカリShops」や越境取引、お金や信用、暗号資産、NFT、時間やスキルといった多様な価値の循環を推進してきました。そしてメルカリモバイルでは、余ったデータ通信量(ギガ)を売買可能にすることで、お客さまの日常に新たな価値を提供し、メルカリの多様なサービスをさらに活性化させる仕組みの実現を目指します。
メルカリモバイルは、モバイル事業単体での収益化を目指すとともに、グループ全体のシナジーを生み、サービス利用を促進させる装置として重要な役割を担っています。例えば、不要になったモノを「メルカリ」において販売して得た売上金でギガを買ったり、反対に余ったギガを売って「メルカリ」でのお買い物に利用したりと、出品・購入の利便性を高め、メルカリのエコシステム拡大を図ります。
当社はメルカリモバイルを通じて「あらゆる価値の循環」をさらに推進し、社会全体に新しい可能性を提案してまいります。ぜひ、これからの挑戦にご期待ください!
執行役員CEO Fintech 兼 MVNO事業責任者
株式会社メルペイ代表取締役 CEO
永沢 岳志 (ながさわ たけし)
2007年、一橋大学商学部卒業後、NTTコミュニケーションズでマーケティング、事業開発を担当。その後、米国マサチューセッツ工科大学MBA修了、Amazon Japan、bitFlyerを経て、2021年に株式会社メルペイ入社。Fintech領域のGrowthを管掌し、2024年1月より株式会社メルカリ執行役員 CGO 兼 CEO Fintech、株式会社メルペイ代表取締役CEOに就任。2025年3月よりMVNO事業責任者を兼任。
訪日外国人が日本で滞在中に快適な通信環境を利用できる重要性は、旅行者にとっての安心感や満足度に直結します。AIR‑Uは、こうしたニーズに応えるべく、プリペイドSIMやeSIMサービス、クラウドSIM搭載のモバイルルータを展開しています。日本各地で手軽に利用でき、初めての訪日旅行者でも安心して使える多言語対応設計となっています。
当社が本事業に参入した背景には「訪日旅行者に“ストレスなくつながる体験”を届けたい」という強い想いがあります。利用形態に応じてプリペイドSIMやeSIMを柔軟に選べる設計とし、開通の簡便さや利用ガイドの多言語対応など、初めて日本を訪れる方でも安心して利用できる工夫を随所に取り入れています。
AIR‑Uでは、本事業を単なる「通信提供」ではなく、日本での体験を豊かにする「ホスピタリティ事業」として位置づけています。旅行者が安心して日本を楽しめる環境づくりこそ、AIR‑Uのミッションです。
当社がIIJと帯域接続事業で連携している理由は、その高品質なネットワークと柔軟なMVNO支援体制にあります。訪日外国人向けサービスは、通信の安定性や接続エリアの広さ、スピードへの信頼性が何より重要です。IIJのインフラとノウハウを活用することで、当社は安心かつ使いやすいSIMサービスの提供を実現しています。また、迅速な回線提供と柔軟な技術サポートにより、短期間で帯域接続を含むMVNO事業を立ち上げられたことも大きな後押しとなりました。
今後もIIJと連携しながら、訪日外国人向けSIM事業の拡充と品質向上に努めてまいります。そして、観光業界、空港、宿泊施設などとの連携も視野に入れつつ、地域社会とともに利便性と満足度の高いサービスを目指します。
AIR‑Uはこれからも「また使いたい」と思ってもらえる通信体験を、訪日旅行者1人ひとりに届けるため、技術とサービスを磨き続けてまいります。
代表取締役社長
田中 康之助 (たなか こうのすけ)
1975年、福岡県生まれ。1997年に日本大学を卒業後、酒類販売企業へ入社。退社後、大手通信関連サービス企業に入社し、固定回線事業やMVNO事業などに携わる。約17年にわたる業界経験を経て、2017年に株式会社AIR‑Uを設立し、代表取締役に就任。
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