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デジタル革命の海へ インターネットの自由

IIJ.news Vol.185 December 2024

世界中で54億人(全人口の67%)の人たちが利用するインターネット。
その上を流れる膨大な情報は、時間と距離の制約を超えてサイバー空間を超高速で行き交い、社会や経済の仕組みを大きく変えている。
インターネットの特徴は「自由でオープンな仕組み」にあるが、その「自由」が次第に失われつつある。
今回は「インターネットの自由」について述べてみたい。

執筆者プロフィール

IIJ 取締役 副社長執行役員

谷脇 康彦

バラツキの大きい各国の自由度

ワシントンDCに本拠地を置く非営利法人フリーダムハウス。この組織は2009年から「ネットの自由」と題するレポートを毎年公表してきた。2024年10月に発表された最新の報告書*1では、世界72カ国を調査対象として取り上げ、各国のインターネットの自由度を100点満点でスコアリングしている。評価の基準は「ネットへのアクセスの制限」「コンテンツの内容に関する制約」「ネット利用者の権利の侵害」の三本柱からなる。

報告書の国別自由度ランキングを見ると、上位にはアイスランド(94点)、エストニア(93点)、カナダ(86点)、コスタリカ(85点)、オランダ(83点)が入り、日本は第8位(78点)。日本について報告書は「既にある自由なインターネットという堅牢な環境がさらに改善されている」と評価している。ちなみにアジア地域の各国を見てみると、日本のほか、台湾(79点)や豪州(76点)の得点が高く、ロシア(20点)や中国およびミャンマー(ともに9点)の得点が低い。

低下するインターネットの自由度

それでは次に全体的な傾向を見てみよう。世界72カ国のうち、ネットの自由が確保されている国(に住む人口)は17%、部分的に自由な国が35%、自由でない国が35%。ちょうど10年前の報告書(2014年版、調査対象は65カ国)のスコアと比較してみると、自由な国は29%から17%に減少し、逆に自由ではない国が23%から35%に増加していて、状況は確実に悪化している。

もう少し具体的に見てみると、ネット利用者の79%が住む国において、オンライン上の政治的・社会的・宗教的発言を理由に当局に逮捕・収監されている人がいる。また、67%の国でオンライン上の活動を理由に個人に危害が加えられたり命が奪われており、48%の国で政治的な理由などにより当局がインターネットやモバイル網を遮断している。

インターネットやSNSを通じて人々が情報を共有して、2010年頃の「アラブの春」のような社会的なムーブメント(反政府活動)が起きることを当局はひどく怖れるようになり、ネットに介入して人々の情報アクセスを制限したり、オンライン上での政治的な発言を処罰する姿勢がより強く出るようになっている。

選挙とインターネットの自由

折しも今年2024年は選挙の年。日本を含む60カ国以上で重要な国政選挙が行なわれ、世界の人口の半分以上が自らの代表である政治家を選ぶ重要な年となっている。そこで報告書(2024年版)は「オンライン上の信頼を求める戦い」という副題をつけ、各国の選挙活動とインターネットの自由について分析している。

具体的には、選挙がこの1年に実施された国(近く実施される予定を含む)41カ国のうち25カ国において、政治的・社会的・宗教的なスピーチを掲載するサイトを当局がブロックしているほか、ソーシャルメディアへのアクセスの遮断、インターネット接続の喪失といった事案が頻繁に発生している。

報告書に記載されている個別事例も多岐にわたる。中立的な独立系ニュースサイトへのアクセスを遮断するよう当局がISPに命令を下した事例をはじめ、対立する野党のオンライン討論会の時間になるとネット接続を当局が遮断した事例、政府に逮捕されることを回避するためにAIで生成した仮想の人物(アバター)に政府批判の演説をさせる動画を流す事例などが紹介されている。また、政府に批判的な対立候補(前首相)が収監されながらも執筆した演説原稿をAIで作成した本人のアバターに演説させた動画の事例、検閲外の海外コンテンツを視聴しないようVPNサービスの広告を禁止している事例、さらには軍部出身の候補者が自らのイメージをよくするために選挙動画の中で本人の姿を可愛らしいアバターに置き換えて印象操作を行なう事例なども併せて紹介されている。

生成AIの登場がもたらす新たな課題

また、当局お抱えのコメンテータが当局に都合のよい情報を流している事案も41カ国中21カ国に及ぶ。その際、当局の主張を広く流布させるため生成AIを活用する事例も急増している。選挙と生成AIの関わりは、近年浮上してきた新たな課題の1つだ。

こうした生成AIのもたらす課題に対応するため、例えば、韓国では選挙前の一定期間はディープフェイクの選挙への使用を法律で禁止しており、台湾では候補者がSNSに掲載されたディープフェイクについて、専門家などの確認を経た上で削除を求めることができる仕組みがある。

米国の場合はどうか。調査機関ピューリサーチセンターは2024年9月、大統領選におけるAIのインパクトに関する人々の意識調査結果*2を発表した。これによると、66%の人はAIが選挙において悪い目的で使われると見ている。具体的には57%の人が候補者や選挙運動に関する偽・誤情報の生成や配布にAIが使われることを強く懸念しており、77%の人がテック企業に対応責任があるという認識を示している。こうした問題意識を反映し、連邦レベルでの法制化はないものの、全米19州でAI生成コンテンツについて、その旨を明示すること(ラベリング)を義務付ける法律が成立している。選挙と生成AIを巡るルール整備の問題は、民主的な社会を維持していく上で今後ますます重要になるだろう。

あらゆる自由を求める闘いと不可分

冒頭で触れた10年前の報告書(2014年版)の末尾にはこう記されている――「インターネットは、個人的なコミュニケーションやニュース・情報だけでなく、政治参加や市民活動にとっても極めて重要なメディアである。インターネットの自由を求める闘いは、つまるところ、あらゆる種類の自由を求める闘いと不可分である」。

世界の紛争を解決し、格差をなくし、民主的な世の中を構築していくために世界が抱えるさまざまな課題を我々は解決していく必要があり、インターネットが本質的に持っている「自由でオープンな仕組み」という特質を最大限活かしていくことが求められる。そのためにも「インターネットの自由」というテーマに引き続き真摯に向き合っていかなければならない。

  1. *1Funk, Vesteinsson, Baker, Brody. Grothe, Agarwal, Barak, Loldj, MasinsinSutterlin eds. “Freedom on the Net 2024,” Freedom House, 2024, freedomontgenet.org
    https://freedomhouse.org/sites/default/files/2024-10/FREEDOM-ON-THE-NET-2024-DIGITAL-BOOKLET.pdf
  2. *2Shanay Gracia “Americans in both parties are concerned over the impact of AI on the 2024 presidential campaign,” Pew Research Center (September 19, 2024)
    https://www.pewresearch.org/short-reads/2024/09/19/concern-over-the-impact-of-ai-on-2024-presidential-campaign/

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