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ぷろろーぐ マスクのなかに閉じ込める

IIJ.news Vol.165 August 2021

株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 鈴木幸一

テレビの報道番組の映像を見ても、真っ赤に染まった空は、地球の終末を予感させるような不気味な光景である。連日、45度を上回る高温が続いていたギリシャの島々を覆った火災は、島全体に広がり、森林ばかりでなく住民が暮らす地域にも達し、人々は火災を逃れて、当て所なく避難船に乗り込み、炎を反射する不気味な空を眺めている。「すべて、すべてが炎の中に消えてしまう」。避難船に乗り込んだ住民の言葉である。「すべてが炎に襲われ、灰になってしまった」。凄絶な炎に包まれた海の向こうの燃える島を見ていると、そんな言葉しか浮かばない。

酷暑が危惧されたオリンピックが終わった。暑いことは暑かったのだが、気温だけを見ると、今年の東京は35度を超えた猛暑日が例年に比べて、極めて少ない夏だったようだ。オリンピックの終盤にかけて、いくつかの台風が日本の南の海上にあって、天気図にその存在を示していた。オリンピックが終わる頃、日本に接近し、すぐに弱まって低気圧になったが、前線を刺激し、以後、日本は線状降水帯となって、雨が降り続いている。オリンピックとともに酷暑が去ってしまったようだ。まだ8月半ばというのに、秋雨前線の停滞に似た天気が続き、暑さは消えたのだが、雨が降り続いている。

時節柄、開催そのものに批判が出るなど、物議をかもした東京2020オリンピックだったが、日頃、あまりテレビを見ない私にとって、オリンピックの実況放送は、ひとたび見始めると、途中でテレビを消して、用事を済ますわけにはいかなくなるほど引き込まれてしまった。競技が終わるまでついつい見続ける夜が続いた。鍛え上げた世界のトップレベルの選手が繰り広げる競技は、それほど魅力のあるコンテンツなのだ。従来は予選を通り、決勝に残ることなど稀だった陸上競技のトラック種目で、決勝まで戦い、一桁の順位でゴールした若い日本選手の活躍に感動した。改めて、昔ながらの陸上競技こそ、大きな競技場で開催されるメインイベントであることを確認したのである。もちろん、他の種目が劣るわけではないことは、言うまでもない。

ところで、オリンピックの開催の是非をめぐって、さまざまな批判を呼ぶことになった新型コロナウイルスは、デルタ株など、より強い感染力を持ったウイルスが次々に生まれ、世界的な規模で再び感染者数を増大させている。最近では、中国でも再び感染者が増加していることがニュースになっている。欧州は、長期休暇、バカンスの季節であり、バカンスを封じるにしても、せいぜいがそれなりの対応といった感じである。英国や米国では、感染者数はともかく、マスクもせず、以前と変わらない生活を取り戻したかのようである。

日本はワクチンの接種が遅れたこともあり、人々の反応も極めてナーバスな状況が続いている。何事にも、じたばたする感性を持たない私など、その反応の鈍さに批判を受けることが多く、余計な発言は慎もうと、マスクの下に言いたいことなど、閉じ込めてしまうように気を使っているのである。


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