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地域一体で取り組むスマート農業

日本の農業人口はこの30年で3割も減少。今後さらに高齢化が進み、各地で担い手不足が深刻化していくと言われています。 北海道随一の米所、空知地域も例外ではありません。
そこで積極的にスマート農業を取り入れ、稲作の省力化/大規模化・ノウハウの蓄積を目指しています。
本記事では、空知地域の皆様に、現在進めている取り組みについて伺ってきました。

空知地域の課題

空知地域の特徴、また農業における課題・取り組みを教えてください。

左:北海道空知総合振興局 産業振興部農務課 主任 石川氏
右:北海道空知総合振興局 産業振興部農務課 企画係長 湯淺氏

湯淺氏:北海道は14の地域に分けられ、各地域を所管する振興局という組織が設置されています。私と石川は空知総合振興局の農務課に所属しています。
北海道全体に言えることですが、空知でも農家の担い手減少は著しく、広大な農地を少ない農家で支えていかなければならない状況の中、農作業の省力化、労働力不足への対応は急務となっており、その解決手段の1つとしてスマート農業に注目しました。
空知には、スマート農業先進地である岩見沢市をはじめ、新十津川町でも様々なスマート農業の実証実験が進められています。
各地での先進的な取り組みを管内全体へ広げていくため、昨年度、空知総合振興局では、スマート農業推進室を設置し、我々はそのメンバーとなっています。

稲作では、どのようなスマート農業技術の導入が進められていますか。

石川氏:ドローンによる農薬散布、スマホアプリを使った水管理(*1)、RTK(*2)基地局を使ったトラクターの直進アシストや自動走行などの省力化事業を中心に普及が進んでいます。

(*1) 後述参照(白石農園 白石氏の説明)

(*2) Real Time Kinematicの略。 地上に設置した基地局からの位置情報データによって、高い精度の測位を実現する技術

スマート農業導入における課題はありますか。

石川氏:地域ごとに様々ありますが、共通した部分でいうと以下などです。

  1. 1価格:高価な機器では導入のモチベーションが上がりません。また基本パーツが安価でも、追加パーツの組み合わせによって高価になってしまうケースも
  2. 2電波環境:スマート農業には不可欠で、安定環境を整えることは必須
  3. 3説得力:「何となくよくなった」ではなく、しっかりと可視化・数値化できる効果を提示すること

新十津川町:水田におけるスマート農業

スマート農業導入推進の工夫や実績を教えてください。

新十津川町 産業振興課農林畜産グループ長 得地氏

得地氏:国の予算を活用した実証事業に加え、町独自の支援事業を展開して金銭面のバックアップ体制も作りました。
また、実証事業の効果を知ってもらうための研修会やスマート農業機械の実演会も実施するなどして、農家さんにスマート農業への理解を深めてもらうよう努めています。
その甲斐あってかドローンでは、水稲農家の約4割で利用されるなど、少しずつ実績に繋がってきていると感じています。

また新たな担い手という観点では、農業に興味を持ってくれればと、小中学生にロボットトラクター試乗やドローン操作見学などの課外授業を行っています。とても喜んで参加してもらえているようでうれしい限りです。

石川氏のお話にあった「スマホアプリを使った水管理」とは?

新十津川町 白石農園 白石氏

白石氏:雑草・害虫への対策や、収量・品質向上のために、実は水稲農家は田んぼの水位や水温などを毎日きめ細かく管理しています。そのため、一般的な農家であれば日に2回、3回と田んぼへ通い、1枚1枚、田んぼの状態を確認しながら水門の開閉を行い調整しています。水田全体は広く結構な時間が掛かり、私も全体を回るのに少なくとも1時間。それを日に何度もやっています。

スマート農業の導入で、水管理はどう変わりましたか?

白石氏:使う機器は「IIJの水田センサー」と「笑農和の自動給水装置」です。

  1. 1田んぼ1枚1枚に挿した水田センサーから送られた「水位・水温」情報をスマホで確認
  2. 2スマホから水門の開閉指示を行う

という流れで、水田まで足を運ばなくても水管理が可能になりました。

IIJ担当者の水田センサー開発と今後への思い

IIJが水田センサーを開発したきっかけは何ですか?

IoTビジネス事業部 副事業部長 齋藤 透

齋藤:IIJはもともと通信事業がメインの会社です。ただ私自身はルータなどネットワーク機器の開発もしてきましたので、ハードウェアから通信サービスまでをフルスタックで経験してきた経緯から、IoT事業に興味があり、農業を含めいくつかの産業でのビジネスを模索していました。スマート農業では、ドローンやトラクターといった大型の機械を扱った事業は今後伸びてくるだろうと言われていますが、ハードウェアメーカでもないIIJにそれは難しい。しかしセンサーだったら小さいし、遠隔地から様子を確認できるリモートセンシング分野であれば、コアは「通信」なのでIIJの強みも活かせそう。そこへたまたま農水省から、低コストで水田の水管理を効率化させる事業のコンペに参加してみませんか?というお声掛けがあり チャレンジしました。

開発は順調に進みましたか?

齋藤:正直「センサーぐらいなら作れるかな」と始めたのですが、これが大間違いでした(笑)。ルータなどのネットワーク機器は室内の安定した環境で利用しますが、泥水に浸かった状態で計測値の精度を上げることにかなり苦労しましたし、直射日光を浴び続けると特性が変わってしまったなど、さまざまな難点を地道にクリアしながら、まともに動くものを作るには2年以上掛かりました。

齋藤:誇張ではなく花屋はリアルに「泥まみれ」でしたよ(笑)。

齋藤:さらに重要なのはコスト面。品質・耐久性の維持と低コスト化を両立させる開発は非常に難しかったです。

実際、低コスト化に向けてどのような工夫をされているのですか?

IoTビジネス事業部 アグリ事業推進室長 花屋 誠

花屋:水田センサーは、センサー部を直接水田に挿し、測定した水位・水温データを無線通信を経由してクラウドに送信しています。

低コストポイント1:シンプルな構造と低消費電力
部材を極力減らし、製品のコストを抑えました。さらに、単三電池2本で1年間稼働させることが可能です。
低コストポイント2:通信費用
センサー1台毎にSIM通信を行う方式をとる場合、センサーの台数分の通信コストがかかってしまいますが、IIJではLoRaWAN®(*3)という無線方式を用いることで、基地局にいったん通信を集約し、通信料を大幅に抑えることができます。利用するセンサー台数が増えれば増えるほど、「割り勘」効果によってさらにコストを下げることが可能となるのです。

(*3) 低容量のデータ通信に向く、長距離無線方式の一つ。1台あたり約1000個分のセンサー集約が可能。

花屋:他にも様々な関係先の協力やアドバイスをいただきコスト削減を図ってきました。
そもそも農業経験者ゼロの開発なので、1から農家さんに教えてもらう日々なんです。使用いただいてはフィードバックを貰う・・の繰り返し。開発初期はセンサー利用によって逆にお手間を掛けさせてしまったり、壊れてメンテナンスしたりで仕事量を増やしてしまいましたが、協力いただいた農家さんは日本の農業の未来を真剣に考えていらっしゃる方ばかりなので、大変協力的で厳しい意見も沢山くださり有難かったです。
しかし自治体の方や農家さんと一緒に作業着を着て水田で開発することはとても楽しいんです。通常我々は企業様の情報システム部門がお客様となるので、その先のエンドユーザの声はなかなか聞けませんが、自分が作ったものに対する忌憚のない意見を聞けることは、この仕事の非常に面白いところだと感じています 。

今後の展望を教えてください。

齋藤:まずはこの水田センサーを製品としてしっかり普及させられるよう、技術革新・コスト低減に引き続き取り組んでいきます。また新十津川町ではスマート農業を活用することで良食味米を目指すという取り組みをされていて、我々もそこで最適な栽培計画やシステムの提案ができるよう、北海道の農業の特徴をよく理解し企画開発を進めていきたいと考えています。

第二に、我々の本業は通信ですから、水田センサー以外にも取り組んでいけたらと考えています。現在農水省と連携しながら、農村における通信基盤作りに取り組んでいます。例えば今回利用したLoRaWAN®・LPWA無線の規格化、ローカル5G活用など、様々なものを組み合わせ、水田・畑作や施設園芸・果樹、さらには防災など、地域に住む方たちが便利に快適に生活できるための仕組みを提供していきたいですね。

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